ラジオゾンデを追跡する方向探知機の変遷
方向探知機について
測風経緯儀は光学測器であることから雲でさえぎられる時や、霧、雨、雪等で天気の悪いときは観測ができませんでした。このため、天気に左右されることなく高層風を観測するため、自由気球に電波を発信する無線送信器(ラジオゾンデ等)を取り付けて飛ばし、これを方向探知機で追跡する方法が開発・導入されました。無線方向探知機は、常に最新の無線工学および電子技術を採り入れ進歩を遂げてきました。
このページでは、過去に高層気象台で使用した方向探知機を紹介します。
D44型最大感度式方向探知機
D44型最大感度式方向探知機は、5素子の八木アンテナと受信機が一体となっており、三脚に載せて使用します。ラジオゾンデ等の方位角と高度角は、手動操作でアンテナを上下、左右にふって、受信音が最大になる方向を探して測定します。
使用周波数は408MHzで、1948年から1952年頃まで使用しました。
D49E型等感度式方向探知機
D49E型等感度式方向探知機は、特性の等しい4個の八木アンテナを配置し、各アンテナからの受信レベルが等しくなる方向を電波の到来方向として方位角と高度角を測定します。D49E型等感度式方向探知機は、方位角と高度角を同時に測定し読み取ることができました。
使用周波数は408MHzで、1950年から1957年まで使用しました。
D55A型自動追跡記録型方向探知機
D55A型自動追跡記録型方向探知機は、在日米軍から1954年に自動追跡型方向探知機を譲り受けて、これをモデルに製作されました。波長の短い1,680MHzの電波を使用する方式で、パラボラアンテナを用いて指向性の向上を図り、自動追跡を可能にしています。方向探知の方法は円錐走査方式で、アンテナビームを回転させて、ラジオゾンデ等からの到来電波の等しい点をパラボラアンテナが自動的に追跡して行います。1957年から1972年まで使用しました。
D55B2型自動追跡記録型方向探知機
D55B2型は、基本性能はD55A型と同じですが、電子部品が電子管(真空管)からトランジスタやICに変更されました。また、方位角と高度角の駆動モーターにプリントモーターを採用し、サーボ回路の性能向上を図り、追跡の安定性が大幅に改善されました。
1972年から1992年まで使用しました。
JMA-91型高層気象観測装置
JMA-91型高層気象観測装置の方向探知機は、パラボラの前面に5個のアンテナエレメントを配置するモノパルス方式です。中央のアンテナエレメントでゾンデ信号を受信します。自動追跡は、他の4個のアンテナエレメントで受信する信号を比較し、信号強度が等しくなるようにアンテナを動かして行います。
1992年から2009年まで使用しましたラジオゾンデが開発される前の高層気象観測
初期の高層気象観測
初期の高層気象観測は、地上における気象観測の延長として富士山や筑波山などの高山の山頂で気象観測を行うことから始まりました。富士山は1932年から、筑波山は1902年から通年観測を開始しています。
高層大気を観測する気象台として高層気象台が設立された1920年頃は、まだ無線を使用するラジオゾンデが開発されていませんでした。このため、上空の気圧・気温・湿度の観測と風向・風速(高層風)の観測はそれぞれ独立して行われました。
気圧・気温・湿度の観測
高層気象台創設当時の上空の気圧、気温と湿度の観測は、係留気球または凧にセンサと自記記録部からなる観測器を吊るし、上昇・下降して行いました。この方法では高度約3キロ程度までしか観測できませんでした。
そこで、より高高度までの高層気象資料を得るため探測気球による観測が1923年から時々行われました。探測気球観測は、自由気球(水素ガスをつめたゴム気球)にメテオログラフと呼ばれる気圧、気温、湿度を記録する気象観測器とパラシュートをつけて飛揚し、気球破裂後パラシュートでゆっくり落下させ、この観測器を回収して記録を読み取るものです。
探測気球観測は、回収までに時間がかかることや回収できないこともあり、高層大気の構造を調べる調査研究に役立ちましたが、観測データをリアルタイムに入手し天気予報へ利用することはできませんでした。
高層風の観測
高層風の観測は、小型気球に水素ガスをつめて飛ばし、これを測風経緯儀で追跡して、一定時間毎に方位角と高度角(仰角)を読み取って行いました。この観測方法は、測風気球観測またはパイボール観測といいます。
測風経緯儀とは、望遠鏡を水平および垂直面内で回転するように取り付け、望遠鏡でのぞいた気球の方位角と高度角を測定する測器です。
ラジオゾンデによる高層気象観測の変遷
ラジオゾンデについて
高層気象台では、ラジオゾンデを用いた高層気象観測を1944年から定常的に行っています。ラジオゾンデは電子技術の発展と共に改良が行われてきました。
このページでは、過去に高層気象台で使用されたラジオゾンデを紹介します。
中央気象台1号型ラジオゾンデ
最初のラジオゾンデは、中央気象台1号型と呼ばれ、空ごう気圧計、バイメタル温度計と毛髪湿度計の器械的変化を送信周波数の変化に換えて測定します。
中央気象台1号型ラジオゾンデは搬送周波数変化式のため、気圧、気温、湿度に1つずつ送信器があって、地上の短波受信機もそれぞれ専用のものを3台必要としました。センサ等の収容箱には軽い桐箱が利用され、電源は注液式の電池が使用されました。
中央気象台1号型ラジオゾンデ
モールスコード送信方式のラジオゾンデ
モールスコード送信方式のラジオゾンデの計器部はセンサ部と符号発生部で構成されます。計器部は、空ごう気圧計、バイメタル温度計および毛髪湿度計の器械的変化をペン機構で拡大し、モーターで回転する接点板上をペンが移動すると要素の値に応じた所定のモールス符号を発生する仕組みになっており、上空の気圧、気温、湿度の観測値は、このモールス符号を受信して求めます。電源は、初め注液式の電池を使用しましたが、その後注水式の電池に移行しました。
モールスコード送信方式のラジオゾンデは1949年から1981年まで30年以上に渡って使用されました。また、当初は402MHz帯の周波数を使用していましたが、1957年頃から方向探知機で自動追跡が可能な周波数1,680MHzを使用するようになりました。
モールスコード送信方式のラジオゾンデ
エコーゾンデ
エコーゾンデは、高層風の観測精度向上のために開発されたもので、符号式ラジオゾンデの計器部と受信器および送信器等で構成されます。地上装置から発射された送信パルスを受信器で受信し、送信器からパルス電波を返信することで、電波の往復時間から地上アンテナとゾンデ間の距離(直距離)を測定します。高層風の観測は、この直距離と方向探知機の角度からエコーゾンデの位置を求めて行います。
エコーゾンデは、1962年から1981年まで、主に09時の観測時に使用されました。
エコーゾンデ
変調周波数変化式レーウィンゾンデ
変調周波数変化式レーウィンゾンデは、計算機による自動処理が可能なゾンデとして開発されました。センサは、気圧、気温、湿度の変化を抵抗または静電容量の変化として測定し、周波数変換回路で周波数に変換され、搬送周波数1,680MHzを変調して地上に伝送されます。地上では、パラボラアンテナを用いた自動追跡型方向探知機でレーウィンゾンデを追跡・受信して、周波数を抵抗または静電容量に変換し、気圧、気温、湿度を観測するとともに高層風も観測します。
RS2-80型レーウィンゾンデ
気圧センサは抵抗接点式空ごう気圧計を、気温センサはサーミスタ温度計を、湿度センサにはカーボン湿度計を使用し、気象要素の変化をすべて抵抗の変化として測定します。
RS2-80型レーウィンゾンデによる高層気象観測は、1981年3月から1992年9月まで行われました。
RS2-80型レーウィンゾンデ
RS2-91型レーウィンゾンデ
気圧センサは静電容量変化式空ごう気圧計で、気圧の変化を静電容量の変化として測定します。気温センサはサーミスタ温度計で、気温の変化を抵抗の変化として測定します。また、湿度センサは静電容量型高分子膜湿度計で、湿度の変化を静電容量の変化として測定します。
RS2-91型レーウィンゾンデによる高層気象観測は、1992年10月から2009年11月まで行われました。
RS2-91型レーウィンゾンデ
RS92-SGP型GPSゾンデ
気圧センサはシリコンセンサで、気圧によるシリコン膜の変化を静電容量の変化として測定します。気温センサは静電容量式ワイヤ温度計で、湿度センサは薄膜静電容量式加熱2センサ湿度計で、2つのセンサを交互にヒーターで加熱・除湿しながら、湿度の変化を静電容量の変化として測定します。風向と風速は、GPSの測位情報から算出します。
このRS92-SGP型GPSゾンデの使用開始によって、これまで必要であった方向探知機が不要となり、GPS衛星による精密な位置測定が可能となりました。
RS92-SGP型GPSゾンデによる高層気象観測は、2009年12月から現在も引き続き行われています。
RS92-SGP型GPSゾンデ
RS-11G型GPSゾンデ
気圧計は搭載しておらず、気温・高度から算出します。気温センサはサーミスタ温度計で、気温の変化を抵抗の変化として測定します。また、湿度センサは静電容量型高分子膜湿度計で、湿度の変化を静電容量の変化として測定します。 風向と風速は、GPSの測位情報から算出します。
このRS-11G型GPSゾンデでは小型・軽量化が行われており、観測終了後は従来のラジオゾンデと比べてより安全に降下します。
RS-11G型GPSゾンデによる高層気象観測は、2013年7月から2018年2月まで行われました。
RS-11G型GPSゾンデ
iMS-100型GPSゾンデ
気圧計は搭載しておらず、気温・高度から算出します。気温センサはサーミスタ温度計で、気温の変化を抵抗の変化として測定します。また、湿度センサは静電容量型高分子膜湿度計で、湿度の変化を静電容量の変化として測定します。 風向と風速は、GPSの測位情報から算出します。
iMS-100型GPSゾンデによる高層気象観測は、2017年9月から現在も引き続き行われています。
iMS-100型GPSゾンデ
気球を用いた高層大気の観測について
気球を用いた高層大気の観測
天気予報の精度を高めるためには、地上での気象観測だけではなく、上空での気象観測が不可欠です。また、天気予報以外に気候変動の監視にも、上空大気を継続的に高精度に観測することが必要です。
このため、気球に軽い水素ガスを詰めて気象観測器を吊り下げて空に飛ばし、地上から高度約30kmまで、気温、湿度、風などの気象要素を連続的に観測しています。この気象観測器には様々な種類がありそれぞれ観測要素も異なりますが、これらの気象観測器を総称して「ラジオゾンデ(Radiosonde)」といいます。
空を飛ぶラジオゾンデ
一番上に気球、中央部にパラシュート、一番下にラジオゾンデ(気象観測器)がついています
ラジオゾンデの種類
現在高層気象台で使用しているラジオゾンデは、以下とおりです。
- iMS-100型GPSゾンデ
- RS92-SGP型GPSゾンデ
- ECC型オゾンゾンデ
この他、過去にはレーウィンゾンデ、放射能ゾンデなど、様々なラジオゾンデを使用していました。
ラジオゾンデ観測の特徴
観測は、地上から気球とラジオゾンデを空に放つ「放球」と同時に始まります。ラジオゾンデによって観測されたデータは無線によってリアルタイムで地上の受信器に送られます。気球は少しずつ膨張しながら一定の速度でどんどん上昇し、気球が大きくなり過ぎて割れた所で観測終了となります。観測を終えたラジオゾンデはパラシュートでゆっくりと落ちてきます。観測データは品質管理を行ってから公開され、世界中で天気予報や気候監視などに利用されています。
ラジオゾンデ観測は、大気を直接観測するため観測精度が高い、鉛直方向に連続的に観測するため精密な鉛直分布がわかる、という特徴があります。このため、高い精度の観測データをそのまま使用するだけでなく、気象衛星などの他のリモートセンシング観測(間接的な観測)によるデータを較正するための基準値としても利用されていま高層気象観測(GPSゾンデ観測)
高層気象観測とは
毎日2回、気球にラジオゾンデ(気象観測器)を吊り下げて飛揚し、大気中の気圧、気温、湿度、風向、風速、高度を観測しています。これを高層気象観測と言います。高層気象台では、GPSゾンデと呼ばれる気象観測器を使用しています。
高層気象観測は世界各国の約800か所で行っており、世界中の全ての場所で同時刻(日本では9時と21時)に観測をしています。このほか、台風接近時などには臨時に観測を行うことがあります。
GPSゾンデ放球時の様子iMS-100型GPSゾンデについて
iMS-100型GPSゾンデは、気温センサ、湿度センサ、GPSアンテナ、電子基板などで構成されています。
要素 | 測定方法 |
---|---|
気温 | サーミスタを使用 |
湿度 | 静電容量湿度センサを使用 |
風向 | GPS信号から算出 |
風速 | GPS信号から算出 |
高度 | GPS信号から算出 |
気圧 | 気温・高度から算出 |
iMS-100型GPSゾンデ
RS92-SGP型GPSゾンデについて
RS92-SGP型GPSゾンデは、気圧センサ、気温センサ、湿度センサ、GPSアンテナ、電子基板などで構成されています。
要素 | 測定方法 |
---|---|
気温 | 静電容量式ワイヤ温度計を使用 |
湿度 | 薄膜静電容量式加熱2センサ湿度計を使用 |
風向 | GPS信号から算出 |
風速 | GPS信号から算出 |
高度 | 気圧・気温・湿度から算出 |
気圧 | シリコンセンサを使用 |
RS92-SGP型GPSゾンデ
高層気象観測結果の例
下の図は、ある日の高層気象観測結果をグラフにした例です。グラフの縦軸に気圧や高度を、横軸に気温、湿度、風向、風速などの気象要素を取ることにより、上空の大気の状態を表す図を作成することができます。
オゾンゾンデ観測
オゾンゾンデ観測とは
気球にオゾンゾンデを吊り下げて飛揚し、大気中を上昇しながら外気を取り込み、高度約35kmまでの空気中に含まれるオゾンの鉛直分布を直接観測することをオゾンゾンデ観測といいます。この時同時に気温、湿度、風向、風速も観測しています。
オゾンゾンデ観測は、毎週1回水曜日の15時に行っていますが、雨天や強風の場合には、曜日をずらして観測を行います。
ラジオゾンデ (仏: radiosonde、英: radiosonde) とは、気球に取り付けて飛ばし、高層大気の気温・湿度・気圧などを測定し、測定値を無線で地上に送信する装置
概要
地上にいながらにして上空、高度およそ30kmまでの気温、湿度、気圧などのデータを得るために、主にゴム気球にとりつけて飛ばされる無線機付き気象観測機器のことである。高層気象観測装置の一種であり、またテレメトリ装置の一種とも言える。
「radiosonde」という名称は、発明者のフランス人ロベール・ビュローによる造語で、「ラジオ」はフランス語や英語等々で無線電波、「ゾンデ」はドイツ語やフランス語で探針のことである。英語でもradiosondeと呼ばれるのが一般的。
分類・種類
気球につけて飛ばし高層気象のデータを電波で地上に送信する装置全般を総称して「ラジオゾンデ」と呼ぶが、観測できるデータの種類などによってさまざまに下位分類されている。→#分類・種類
構成・構造
ラジオゾンデは主に計測機器、センサー類、無線送信機の回路基板、電池、送信用アンテナなどから構成される。 (一般論としては)温度計と湿度計はラジオゾンデから突き出たアームに取り付けられており、気圧計や無線送信機、電池などはラジオゾンデの本体内部に配置される[2]。 電池は小型の積層電池、注水電池(塩化銀電池)、リチウム一次電池が用いられる。これらは環境負荷の少ないものが選定・使用されている。なお半導体が普及する以前は、小型の真空管を用いた回路を使用していた。
ラジオゾンデによる観測の流れ
通常の流れとしては、ラジオゾンデは水素ガスなどを詰めたゴム気球につるされた状態で放たれ飛揚し[2]、1分間に 300~400mほどの速度で上昇しながら[2]、上空の気温、湿度、気圧などを観測したデータを無線送信機で送信する。周波数としては、403.3MHz~405.7MHzの100kHz間隔・1673MHz・1680MHz・1687MHzなどで、信号形式で送信される。それを地上で受信機を用いて受信し、データを解読・解析する。600gのゴム気球を用いた場合、約90分で上空30km程度に達すると気球の膨張が限界に達して破裂し、ラジオゾンデはパラシュートで地上に降下し[2]、観測終了。
多くは使い捨てだが、修理した方が安く上がるのであれば回収されたゾンデを修理して使用する(この場合、ケースには放出者の連絡先と「本機を拾得された方は御連絡下さい」などの文言が書かれる)。
日本[編集]
日本では、全国18箇所の気象台・測候所、航空自衛隊、陸上自衛隊、大学などの研究機関、日本気象協会などが観測を実施している。気象台・測候所では、通常1日に2回(8時30分・20時30分)飛ばしている。台風接近時などは1日に最大4回飛ばすことがある。海上保安庁では船舶から飛ばしているが、航空機から投下することもある。[3]
高層観測のためにゾンデを放球する場合、定時観測では年に1-2回、航空路誌(AIP:Aeronautical Information Publication)で告知するほか、臨時観測する場合、放球数時間前に航空当局に対して「高層観測を行うためのゾンデ放球を行う」旨の告知を行い、ノータムを流してもらうことになっている。
日本から飛ばした場合、多くは偏西風に乗って太平洋上へ落下するが、季節や時間帯、地理的な影響や気象条件などにより、陸地に落下する場合もある(ただし陸地に落下することが予想される場合は、パラシュートを取り付けて飛ばしている)。過去には、八丈島測候所から飛揚されたラジオゾンデが、通常通り上空まで上昇後、再び、八丈島に落下したという事例がある。
分類・種類
- レーウィンゾンデ(rawinsonde)
- 気圧、気温や湿度の他に風向・風速を測定する機能も持つ観測機器を特に区別する呼び方、分類法。
- エコーゾンデ
- 測風精度をレーウィンゾンデより向上させるため、ゾンデに無線の受送信機能を持たせたトランスポンダを装備し、地上設備のパルス送信機の電波をゾンデが受信後、応答電波を発し、送受信の所要時間から直線距離を計測する装置
- GPSゾンデ
- ゾンデが気象データのほか自機のGPS情報をGPS衛星から取得してDGPS(相対測位方式)により誤差数m程度まで補正して、その3次元の位置情報を地上に送信し、気象データとともに高度や風向・風速を観測するもの。GPSゾンデは小型軽量化が著しくまた測風観測に必要な地上の方向探知器システムが不要になることから、近年はレーウィンゾンデに代わって主流になりつつある。18,000 m (59,000 ft)以上の高度では対共産圏輸出統制委員会(COCOM)規制の名残で大陸間弾道ミサイルのような用途への搭載を防ぐためにGPSは使用できない[4][5][6]。
- 放射能ゾンデ
- 上空の放射線量を計測するもの
- オゾンゾンデ
- オゾン濃度を計測するもの
- エアロゾルゾンデ
- 塵などのエアロゾルを計測するもの
- 電気ゾンデ
- 空中の電位差を計測するもの
なお通常レーウィンゾンデで観測できる測定量以外の量を観測する機能を持つゾンデは、総称して特殊ゾンデという。
歴史
前史
気象学において、地上気象観測と同じように重要な位置を占める観測が高層気象観測である。これからわかった高層気象の規則性は大気力学の発展を後押しし、数値予報の発達などにも大きな影響を与えた。現在においても、高層天気図は天気予報に必須となっている。
18世紀末の気球の発明の後、しばらくは上層大気の探検的な意味合いで気球が使われて発達した。気球を使った高層気象観測では、当初気球観測には人が乗って結果を記録・確認する必要があった。そのため気球観測用のゴンドラは「若い気象学者を育てるゆりかご」といわれた時代もあった。
当時高空で人間に安定して酸素を供給するのは簡単ではなく、重い人間を乗せる気球の浮揚力と人間の安全性を考慮すると、高度10 km程度が有人気球が上れる限界と考えられた。1862年にイギリスの気象学者ジェームズ・グレーシャーは、初めて高度約12kmまで気球で上がったが、その時の観測は命がけとなった。下降するために水素を放出するガスバルブを開ける曳索が、絡まったまま気球が上昇し続けたため彼は酸素不足で意識を失い、相棒の操縦士が寒さで動かなくなった腕の代わりに歯でバルブの曳索を引いてバルブを開けてかろうじて降下することができた[7]。
そういった命に関わる危険性があったため、軽くて手軽な自記測定器が発明されると、軽い無人気球による観測が主流となった。しかし、自記測定器は強い日射や低温の影響など気球観測ならではの特殊な環境のため、常に正しく動作・観測するとは限らなかった。そのため、安全性やコストからはなるべく無人気球による観測を行うが、測定の信頼性の確認は有人気球で行うことも19世紀末まで残った[8]。
20世紀に入ると、高層気象観測はゴム製の気球と信頼性の高い自記測定器によって、専ら無人気球で行われるようになった。それでも観測結果を得るためには、住民らの協力によって自記測定器を回収する必要があった[8]。しかし1930年前後のラジオゾンデの発明により、回収の必要がなくなり、観測と同時にリアルタイムで結果がわかるようになった。
(無線を用いたがラジオゾンデとは言い難いものとしては)1924年、米軍のen:Signal Corps(通信隊)のウィリアム・ブレア大佐は、無線回路の温度依存性を利用した素朴な実験を行った。
歴史
真にラジオゾンデと言えるもの、つまり正確なデータを観測し電波で送信した最初のものは、1929年にフランス人ロベール・ビュローによって発明されたものであり、1929年1月7日に最初の観測が行われた。このビュローが「ラジオゾンデ」という造語も行った。1930年には、ソビエト連邦のモルチャノフ(Pavel Molchanov)は、ビューローらとは独立に気温と気圧を測定するラジオゾンデを開発して高度10kmまで測定を行った。モルチャノフのゾンデは簡便な機構とモールス符号を使った信号により扱いやすいため、直ちに標準的な方式となり、世界へと広まった[9]。
規制法規[編集]
ラジオゾンデは無線局の一種にあたり、各国の電波関連法規の規制を受ける。
日本では、電波法施行規則第2条第1項第42号に「航空機、自由気球、たこ又は落下傘に通常装置する気象援助業務用の自動送信設備であって、気象資料を送信するもの」と定義し、電波型式、周波数、空中線電力を第13条の3の2に定めている。また、適合表示無線設備でなければならず技適マークの表示は必須である。(従前は無線機器型式検定規則による検定機器で検定マークの表示が必須であった。)なお、上記の400MHz帯の周波数は、2009年(平成21年)に高度化に伴いデジタル式を導入後のものであり、従前の型式(電波型式はアナログ、周波数は404.5MHzおよび1600MHz帯の3波、空中線電力1W以下)のものについては、2019年6月25日まで免許される。時代とともに、歴史を創り続けてきた
明星電気のテクノロジー。
1938年の創立以来、明星電気はさまざまな分野で時代を象徴する歴史の一端を担ってきました。
日本の気象観測の歴史、宇宙開発の歴史。そこには、いつも明星電気の技術があります。
私たちはこれからも独自の技術力と革新的な製品・システムの開発を通じて、
国内外のプロジェクトに参画し、新たな時代を築き上げてまいります
1939
明星電気初のラジオゾンデ開発
ラジオゾンデ1,000個を受注。
測雲ゾンデ、測風ゾンデ、三式温湿ゾンデの製作を行いました。
1948
ラジオゾンデを中央気象台へ納入
当時としては画期的なデジタル方式の
「CMO-S48B型符号式ラジオゾンデ」を開発。
中央気象台へ納入するとともに
「ゾンデの明星」と呼ばれる時代を築きました。
1952
気象ロボット、中央気象台に納入
それまでの測候所での雨量観測から、無線技術を利用した
無人観測を実現。平地とは大きく異なる山岳地域の雨量観測が可能となりました。
「ベビーT」ロケット
映像資料:宇宙科学研究所 ビデオシリーズより
1955
日本初ロケット搭載機器
日本初のロケット搭載電子装置としてテレメータ送信装置を開発。
FM-FMテレメータを搭載した「ベビーTロケット」の打ち上げが成功し、我が国初のロケット搭載機器のメーカーとなりました。
1964
ロケットゾンデの開発
超高層気象観測(高度60km~地上)を行うロケットゾンデを開発。
岩手県三陸町綾里(現大船渡市)の気象ロケット観測所で観測を開始。
2001年3月の観測終了までの間に1,119機の打ち上げを行いました。
1969
南極観測第11次越冬隊に参加
南極でのロケット/バルーンによるオーロラ観測を中心に活躍。
1985年の南極でのロケット実験終了までの16年間にわたり、
すべてのオーロラ実験に参加し続けました。
南極観測越冬隊による大気球でのオーロラ観測
1974
気象庁に「アメダス」納入
わかりやすいネーミングでも話題を呼んだ「アメダス」。
雨量、風向、風速、温度、日照を無人で観測するステーションを開発し、全国約1,300箇所に展開しました。
「アメダス」
1982
超長基線電波干渉計受信装置「VLBI」
電波望遠鏡で天体の電波源を観測し超広域測量する「VLBI」の開発に貢献。
精度の高さから年間10cm程度とされるプレート運動の検出も可能となり、地震予知の分野等に大きく役立っています。
超長基線電波干渉計受信装置「VLBI」
1983
NASAスペースシャトル搭載
スペースシャトルを使用した日本初の実験(SEPAC)にフォトメータ、ラングミュアプローブ、フローティングプローブ波動観測装置、電離真空計、MPD(マグネト・プラズマ・ダイナミックス)、中性ガスプルーム制御装置を搭載しました
1991
計測震度計、気象庁に納入
世界初の震度計測装置を実現。震度計測は体感による観測から大きな進歩を遂げました。また、通信回線で素早い情報収集を行うとともに、テレビ等でも地震直後に震度情報が流れる等、地震災害の初動体制の確立に貢献しています
1994
津波地震観測装置、気象庁に納入
日本海中部地震や北海道南西沖地震(奥尻地震)等の津波災害の教訓から、津波を起こす地震をいち早く検知する目的で、全国182個所に当社の津波地震観測装置が整備されました。
24時間常時全国の地震を監視することができ、地震後、約3分での津波予報が可能になりました。
2000
新空港気象システム「AMOS」
空港に配備されるAMOSは、空港内の気象状態を監視し、その情報を航空局、航空会社に提供しています。 航空機の安全な運行のために欠くことのできない気象観測を行っています。
※AMOS:Airport Meteorological Observing System
羽田空港の「AMOS」視程計
2003
蛍光X線観測装置、「はやぶさ」搭載
「はやぶさ」には当社の開発した小惑星表面の元素組成を測定する蛍光X線観測装置が搭載されています。
この装置は、地表の岩石等が放射する固有の蛍光X線を測定することで、 元素の種類を特定しています。
2005
「早期地震警報システム」
鉄道総合技術研究所と気象庁の共同開発による、早期地震諸元推定アルゴリズムを搭載した「早期警報用地震計」。
その地震計を応用した「早期地震警報システム」は揺れる前に列車を停止させるなど鉄道運行の安全性向上に貢献し、その高度な技術はJR各社、気象庁に採用されています。
2007
月周回衛星「かぐや」
月周回軌道上観測と、月探査の技術開発を目的とする「かぐや」に搭載された15種類の観測機器のうち、明星電気はハイビジョンカメラなど8種類を担当。
月の起源と進化の解明に貢献しました。
「はやぶさ」を載せて飛び立つM-Vロケット5号機
写真提供:宇宙科学研究所
2012
超小型衛星「WE WISH」
10月、当社初の超小型衛星「WE WISH」が国際宇宙ステーションから宇宙に放出され、その後順調に地球を周回し、158日間運用されました
超小型衛星「WE WISH」
014
GPSラジオゾンデiMS-100
小型・軽量化を実現したGPSラジオゾンデ「iMS-100」の販売を開始しました。安全性、運用コスト、環境負荷を大幅に改善しました。
2014
「はやぶさ2」、近赤外分光計・分離カメラなど搭載
「はやぶさ2」には、反射した赤外線を捉え、そこに含まれる物質を特定する「近赤外分光計」、衝突実験の状況を撮影する「分離カメラ(デジタル部)」などを搭載しています。「はやぶさ2」は2020年に地球へ帰還予定です
2015
POTEKA情報提供サービス開始
気象情報提供サービスを開始しました。POTEKAの観測情報により、ゲリラ豪雨や突風、竜巻などの急激な変化をいち早く検知し、迅速な避難行動などを可能にすることが期待できます。
「POTEKA」
ラジオゾンデの歴史
1950年製ラジオゾンデと藤原寛人(新田次郎)
ラジオゾンデは高層気象観測用のテレメトリ装置である。静止衛星「ひまわり」が上空からの気象観測に活躍する現在でも、毎日2回、日本国内では16ヶ所から打上げられ、厳しい測定条件下、上空3万メートルまでの気象を観測し、その測定結果は、天気予報や航空機の運航等に利用されている(気象庁:http://www.jma.go.jp/jma/kishou/know/upper/kaisetsu.html)。
日本のラジオゾンデの開発は、1933年(昭和8年)、陸軍科学研究所による弾道研究目的が最初である。1937年には 定時観測が開始され、これは中央気象台(現在の気象庁)より早かった。中央気象台では、陸軍とは別に中央気象台で開発したラジオゾンデを使って1938年から観測が始まった。 この頃は、空中の気圧・気温・湿度の実測値の変化を、連続的な周波数変化に変換させていく波長変化方式を使っていたので、一つの気象要素について一つの送信機を必要とした。その為、気圧・気温・湿度測定専用の三つの送信機を内蔵したために周波数の使用帯域は6.2~12MHzと広く、しばしば他の無線電信や無線電話との混信がみられた。
藤原寛人は、1932年に無線電信講習所(現在の電気通信大学)を卒業し、中央気象台に就職、同年開設されたばかりの富士山観測所の交代勤務員となった。1年に3度は富士山に登り、一度山頂に登ると30日~40日は滞在したとのことである。 この富士山観測所の担当は1932年から1937年まで続いた。富士山観測所は1936年に外輪山南東から剣が峰に移設され、1941年には支援拠点として御殿場事務所が開設されている。
1940年、藤原寛人28歳の時、前年に千葉県に開設されたばかりの中央気象台布佐出張所(気象送信所)に赴任した。 布佐は、日本で最初に、ラジオゾンデによる高層気象観測が始まったところである。 おそらく思うように動いてくれない当時のラジオゾンデに泣かされたことだろう。当時のラジオゾンデはもちろん真空管式であった。
日本で最初の「ラジオゾンデ」という専門書を藤原寛人が執筆したのは、1942年(30歳)である。同書は当ミュージアム第4展示室に所蔵・展示している。これが藤原寛人(後の作家、新田次郎)の最初の著作である。 その後、1943年に中央気象台から満州国観象台(満州国中央気象台)に転職、戦後1年間の抑留生活後、1946年に気象庁に復職した。
復職3年後の1949年、藤原寛人37歳のとき、エポックメーキングなラジオゾンデが登場する。モールス符号で測定データを伝送する方式で、S48A、S49A、S50型とバージョンアップされていった。これらは中央気象台で開発・試作され、メーカーが量産化した。S50型にはセンサの形状が比較的大きなL型とそれに比べて小型のM型があり、久保田気象測器株式会社による1950年製CMO-S50M型を写真1に示す。総重量は850グラムである。
写真1:CMO-S50M型符号式ラジオゾンデ
A: 発振器部。小型無線送信器、直熱型3極管4N3を1本使用している。
B: 電池ケース。4.8V、ブザートランスで2次側出力90V~120Vを得る。
C: 計測部と符号発生機構。小型モーターの回転により、温度、湿度、気圧の変化に応じたモールス符号を発生して、発振器のリレーを制御する。
ラジオゾンデは高層気象観測用のテレメトリ装置である。静止衛星「ひまわり」が上空からの気象観測に活躍する現在でも、毎日2回、日本国内では16ヶ所から打上げられ、厳しい測定条件下、上空3万メートルまでの気象を観測し、その測定結果は、天気予報や航空機の運航等に利用されている(気象庁:http://www.jma.go.jp/jma/kishou/know/upper/kaisetsu.html)。
日本のラジオゾンデの開発は、1933年(昭和8年)、陸軍科学研究所による弾道研究目的が最初である。1937年には 定時観測が開始され、これは中央気象台(現在の気象庁)より早かった。中央気象台では、陸軍とは別に中央気象台で開発したラジオゾンデを使って1938年から観測が始まった。 この頃は、空中の気圧・気温・湿度の実測値の変化を、連続的な周波数変化に変換させていく波長変化方式を使っていたので、一つの気象要素について一つの送信機を必要とした。その為、気圧・気温・湿度測定専用の三つの送信機を内蔵したために周波数の使用帯域は6.2~12MHzと広く、しばしば他の無線電信や無線電話との混信がみられた。
藤原寛人は、1932年に無線電信講習所(現在の電気通信大学)を卒業し、中央気象台に就職、同年開設されたばかりの富士山観測所の交代勤務員となった。1年に3度は富士山に登り、一度山頂に登ると30日~40日は滞在したとのことである。 この富士山観測所の担当は1932年から1937年まで続いた。富士山観測所は1936年に外輪山南東から剣が峰に移設され、1941年には支援拠点として御殿場事務所が開設されている。
1940年、藤原寛人28歳の時、前年に千葉県に開設されたばかりの中央気象台布佐出張所(気象送信所)に赴任した。 布佐は、日本で最初に、ラジオゾンデによる高層気象観測が始まったところである。 おそらく思うように動いてくれない当時のラジオゾンデに泣かされたことだろう。当時のラジオゾンデはもちろん真空管式であった。
日本で最初の「ラジオゾンデ」という専門書を藤原寛人が執筆したのは、1942年(30歳)である。同書は当ミュージアム第4展示室に所蔵・展示している。これが藤原寛人(後の作家、新田次郎)の最初の著作である。 その後、1943年に中央気象台から満州国観象台(満州国中央気象台)に転職、戦後1年間の抑留生活後、1946年に気象庁に復職した。
復職3年後の1949年、藤原寛人37歳のとき、エポックメーキングなラジオゾンデが登場する。モールス符号で測定データを伝送する方式で、S48A、S49A、S50型とバージョンアップされていった。これらは中央気象台で開発・試作され、メーカーが量産化した。S50型にはセンサの形状が比較的大きなL型とそれに比べて小型のM型があり、久保田気象測器株式会社による1950年製CMO-S50M型を写真1に示す。総重量は850グラムである。
温度はバイメタルで+40℃~-80℃、気圧はアネロイド気圧計(空ごう気圧計)で1040㏔~5㏔、湿度は毛髪を使って100%~0%の範囲で測定される。測定値はモールス符号の"T, N, D, B, 6, X, U"および区別符号のlongTに変換され、周波数402MHzで地上に送信された。
符号変換部の模式図を図1に示す。オルゴール状の回転ドラムの表面に市松模様に符号を腐蝕焼付し、その表面をそれぞれの測定器指針の先端がタッチすることでモールス符号への変換が行われた。
符号変換方式のラジオゾンデはヨーロッパで既に考案されていたが、その実用化への貢献は藤原寛人と気象研究所の技師によるものであった。 無線電信講習所を卒業し、第一級無線通信士と第一級無線技術士の資格を取得していた藤原寛人だからこそなしえたと言えよう。このモールス符号送信方式のラジオゾンデは、その後、改良を重ねながら1982年まで、実に30年以上もの長い期間にわたって使われた。 しかも1969年に完全トランジスタ化されるまでは、発信機に真空管が使われていたのである。
藤原寛人は、その後富士山レーダー建設の責任者となり、歴史に残る仕事をやりとげる。「高層観測指針」(全269頁回路図付)の序文には、
本書は高層課長〇〇技官のもとに藤原寛人技官が編集に当り、夫々各章の脚注に書いてある諸君の執筆になるものである。
と記されている。1951年は、藤原寛人が新田次郎をペンネームとして「強力伝」を執筆した39歳の時であった。 豊富な現場経験と、当時最先端の無線知識を基に、中央気象台の気象観測機器担当の中心を担う技官として活躍していたことがうかがえる。 当ミュージアムで、是非、作家「新田次郎」すなわち藤原寛人が一流の技術屋であったことを証明するラジオゾンデ「S50M型」をご覧いただきたいと思い、ここに「逸品」として紹介する。
<参考>
ラジオゾンデは、藤原寛人らの開発した符号式以外にも、常に当時の最新の通信技術、情報処理技術、電子部品を取り入れ、観測精度の向上、小型軽量化、低廉化が図られてきた。当ミュージアムで常設展示しているラジオゾンデの一部を以下に示す。「レーウィンゾンデ」とは、気圧・温度・湿度に加えてゾンデの位置を無線で追跡することで風向と風速を観測可能な装置である。「GPSゾンデ」ではGPS測位情報から風向・風速を算出する。
写真2:三式温湿ゾンデ(波長変化方式、久保田無線電機、1940年頃)
写真3:符号式ラジオゾンデ(モールス符号変換式 CMO-S50M、久保田気象測器、1950年)
写真4:レーウィン(Rawin)ゾンデ(変調周波数変化式 RS2-80、明星電気、1981年)
(第4展示室担当学術調査員 和田光弘)