スティンガーミサイル
FIM-92 スティンガー(FIM-92 Stinger)は、アメリカのジェネラル・ダイナミクス社が1972年から開発に着手し1981年に採用された携帯式防空ミサイルシステム。「スティンガー」は、英語で「毒針」の意
概要
FIM-92 スティンガーは、FIM-43 レッドアイ 携行地対空ミサイルの後継として1967年に開発が始まったもので、開発においては、どのような状況下でも使用できる全面性と、整備性の向上、敵味方識別装置(IFF)の搭載に主眼が置かれた。
主目標は、低空を比較的低速で飛行するヘリコプター、対地攻撃機、COIN機などであるが、低空飛行中の戦闘機、輸送機、巡航ミサイルなどにも対応できるよう設計されている。このため、誘導方式には高性能な赤外線・紫外線シーカーが採用され、これによって目標熱源追尾能力(発射後の操作が不要な能力)を得ている。
開発
1968年、アメリカ陸軍は世界初の携帯式防空ミサイルシステム(MANPADS)であるFIM-43C レッドアイを配備した。FIM-43Cは熱電効果による冷却措置を備えたPbS焦電式赤外線センサを搭載しており、先行試作型よりも優れた追尾能力を発揮していたものの、全方位交戦能力に欠けており、また、赤外線妨害技術への抗堪性(IRCCM能力)にも問題があった。また、ミサイル本体も3G以上の機動が不可能であるため、追従性も限定的なものであった。
これらの課題を解決するため1967年より、全面的な改良型としてレッドアイ-IIの開発が開始された。1972年3月、レッドアイ-IIはスティンガーと改名され、FIM-92という新しい制式番号を付与された。同年、ジェネラル・ダイナミクス(GD)社が主契約者として生産契約を獲得、1981年には初期作戦能力(IOC)を獲得した。
原型
原型(Stinger Basic)は、1978年-1987年まで生産されていた。
システム構成
システムは、発射機本体と箱型のIFF、BCU(シーカー冷却用のガスとバッテリーを内蔵したユニット)、ミサイル本体から構成されている。ミサイル本体は円形の使い捨ての樹脂製コンテナに収められており、BCUは掌サイズの円筒形で、発射機本体下部の取り付け穴にねじ込んで取り付ける(BCUはシステム全ての電源である)。このため、発射準備は迅速かつ容易に行うことができる。発射時には目視で目標を確認し、その後本体のスイッチを入れ、目標を捕捉する。引き金を引くと、シーカーが冷却され、ミサイル後部のブースター(Launch Motor と呼ぶ)によりコンテナから打ち出され、本体から9-10m離れたところでロケットモーターが点火、超音速まで加速する。
また、発射後の操作は不要で、再発射はミサイルのコンテナとBCUを発射機本体に交換するだけで完了する。なお、使用後のBCUは発電の化学反応でかなり高温になっているので、交換の際は耐熱手袋をはめて行う。
誘導部
アンチモン化インジウム(InSb)フォトダイオードを受光素子とした量子型(冷却型)赤外線センサによる赤外線ホーミング(IRH)誘導方式を採用しており、中波長赤外(MWIR)帯域の検知に対応していることから、全方位交戦能力を備えている。冷却措置はアルゴンガスを冷媒としたジュール=トムソン効果によるものである。
操舵は、前部の4枚のフィンのうち2枚が作動することによって行われ、これらのフィンは後方の4枚とあわせて発射後展張する。
POST型
1977年、GD社は、次世代型スティンガーの開発に着手した。この次世代型スティンガーはスティンガー-POST(Passive Optical Seeker Technique)と呼称され、XFIM-92Bの仮制式番号が付与された。
POST型の最大の改善点は、誘導方式を二波長光波ホーミング(IR/UVH)としたことである。原型では、長波長赤外(LWIR)帯域に対応したInSb型赤外線センサが使用されていたが、POST型では、さらに硫化カドミウム(CdS)素子を導入することで、紫外線領域にも対応した。スキャンはロゼット・パターン方式を使用している。これによって赤外線妨害技術への抗堪性(IRCCM能力)が向上している。
FIM-92Bは、1983年より低率生産に入ったが、原型であるFIM-92Aも並行して生産を継続することとされた。FIM-92A/Bは1987年まで生産を継続し、合計で16,000発以上が生産された。
RMP型
1984年より、最新の脅威に対応できるよう、再プログラミング可能な新しいマイクロプロセッサを導入した改良型の開発が開始された。この改良型はスティンガー-RMP(Reprogrammable Microprocessor)と呼称され、FIM-92Cの制式番号を付与された。
スティンガーの生産は、1987年9月よりFIM-92Cに切り替えられ、アメリカ陸軍は1989年7月より受領を開始した。FIM-92Cはその後、IRCCM能力を強化したFIM-92Dに発展したのち、2002年9月よりFIM-92Gに切り替えられた。
ブロックI
1992年4月、GD社はスティンガー-RMP ブロックIと称される改良型の生産契約を獲得した。同年、GD社のミサイル事業部はヒューズ社に売却され、これに伴って本ミサイルの主契約者もヒューズ社に変更された。ブロックI型はFIM-92Eの制式番号を付与され、1996年より生産を開始した。2001年には、生産は改良型のFIM-92Hに切り替えられた。また、既存のFIM-92DもブロックI仕様に順次アップグレードされ、これはFIM-92Fと呼称された。
ブロックII
1996年より、さらに発展させたスティンガー-RMP ブロックII(通称、アドバンスト・スティンガー)の開発が開始された。ブロックIIでは、AIM-9Xで採用されたのと同様のFPA式赤外線画像誘導(IIR)が導入され、IRCCM能力がさらに増強された。また、射程も8,000m(26,000ft)まで延伸されている。
ブロックIIの開発は技術製造実証開発(EMD)フェーズまで進行したものの、2002年、アメリカ陸軍は、ブロックIIの開発計画に対する財政支援の打ち切りを決定した。
派生型
スティンガーは、基本となるMANPADS型のほか、下記のような派生型がある。これらは、ミサイル本体は同じながらスティンガーの弱点であるバッテリーの持続時間、目標捕捉などを克服したため、非常に有能な兵器である
車載型
- ブラッドレーSFV(Stinger Fighting Vehicle)
- M6 ラインバッカー
- M1097 アベンジャー防空システム
- M163対空自走砲(イスラエル国防軍の独自改良型)
- ヴィーゼル2 Ozelot
- ゲパルト自走対空砲(左側の35mm機関砲側面に2発搭載)
- LAV-AD - LAV-25の車種(アメリカ海兵隊)
- M163 マフベト - M163 VADSのイスラエル軍による改修型
空対空型
AIM-92またはATAS(Air to Air Stinger)は、近距離空対空ミサイル版である。ヘリコプターや軽飛行機、無人航空機の自衛用武装として使用される。
初期型であるATAS Block Iは1978年より、原型機をベースとして開発され、1988年より配備に入った。現在では、RMP型をベースに開発されたATAS Block IIに配備は移行している。新型のATAL発射機を使用した場合、ホバリングから136ノットの前進飛行、30ノットでの側面機動、バンク角22度での旋回までの飛行状態で発射することができる。
艦対空型
アメリカ海軍のサイクロン級哨戒艇やドイツ海軍のベルリン級補給艦、エルベ級支援母艦、デンマーク海軍のアブサロン級多目的支援艦など、哨戒艦艇や支援艦艇においては、近接防空ミサイルとして、スティンガーの艦載発射機を搭載する例が少なくない。
また、スティンガーそのものではないが、スティンガーのシーカー部とAIM-9 サイドワインダーの胴体部を基にした近接防空ミサイルとして、RIM-116 RAMが開発・配備されている。
運用
現在、実用化されている携帯型地対空ミサイルの中では最も命中率が良いミサイルとされ、ギネスブックにも掲載されている(2011年79%)。欠点としては、目標を目視で発見しなければいけない点やバッテリーの持続時間(最大45秒)などが挙げられる。目標の捜索のため、上級司令部のレーダーからの情報を受け取るほか、アメリカ陸軍の歩兵旅団戦闘団やアメリカ海兵隊の海兵空地任務部隊のスティンガー部隊においては、可搬式のAN/UPS-3 レーダーが配備されている。
諸元
FIM-92A (原型) | FIM-92B (POST型) | FIM-92C (RMP型) | |
---|---|---|---|
直径 | 7.0cm(2.75in) | ||
全長 | 1.5m(5ft) | ||
全幅 | 9.14cm(3.6in) | ||
弾体重量 | 5.68kg(12.5lbs) | ||
システム重量 | 15.66kg(34.5lbs)(ミサイル含む) | ||
推進方式 | Mk.27固体燃料ロケット | ||
誘導方式 | 赤外線ホーミング(IRH) | 二波長光波ホーミング(IR/UVH) | |
有効射程 | 4,000m | 4,800m | |
有効射高 | 3,500m | 3,800m | |
飛翔速度 | M2.2+ |
2022/3/2
敵味方識別装置
敵味方識別装置(てきみかたしきべつそうち、英: identification friend or foe、略称:IFF)とは味方を攻撃すること(同士討ち)を防ぐため、電波などを用いて索敵範囲内の航空機・艦艇が味方であることを確認する装置。航空機や艦船に搭載されている
1940年代、第二次世界大戦時にアメリカとイギリスによりMK-Iとして初めて使用された。 その後、民間用にも拡張された。 送信には1090MHz、応答には1030MHzの周波数帯を用い、パルスコードで送信するため、比較的低出力でも広範囲に送信することが出来る。
概要
敵味方識別装置は、電波を発射して対象に返信を要求する、または要求に対して返信する装置である。つまり名称は「敵味方識別」であるが、応答があった時に味方だと確認できるだけで、敵だとの確実な情報を得ることはできない。起源はイギリス空軍による防空レーダー網の建設が始まった1935年まで遡る。
現代の敵味方識別装置は、識別信号を敵に偽装されることを防ぐため、高度に暗号化された方法で識別信号をやりとりするほか、暗号化鍵の漏洩や味方の離反に備え、暗号化鍵を変更してそれまで味方であったものを敵として識別することが可能である。
平時における訓練飛行や要人護衛、救難といった任務においては民間の航空管制用と同じ航空機識別信号を発しており、最高飛行高度と国籍コード、および軍用機であることを示すコードが発信される。軍事行動中はこれら管制用の信号は停波される。戦闘地域周辺を運行中の軍用機が航空機識別信号を発している場合は中立を意味する。
2015年時点でアメリカを中心とする北大西洋条約機構(NATO)加盟国、日本、韓国など旧西側諸国の軍の艦船や航空機は「モード4」機器を搭載している。
「モード4」のIFFは、目視可能距離を超える数百km先の対象を判別できる。
識別信号を電波で送受信した結果はレーダー画面上に味方機なら青、不明機なら赤の三角印などが表示される。
2020年には更に高度なデータ保護機能を持つ「モード5」機器に切り替える計画がある
歴史
IFFに先鞭をつけたのはイギリス空軍で、第二次世界大戦が始まる前から研究が開始された。初期のIFF マークIはチェーンホームレーダーのレーダー波自体を利用し、レーダー波を受けるとレーダーが受ける信号に介入してレーダースコープ上でブリップを歪ませる方法を模索したが、信号の強弱が手動調整であることからうまくいかなかった。そのため、航空機の無線機から1分あたり14秒間にわたって1kHzの信号を出し、これをHF/DFで測量してプロットする「ピップスキーク」というシステムで一旦、実用化をみた。これは人海戦術による力技であったが、CHの覆域外でも利用できた。IFF マークIの信号強度の調整の問題は、自動利得制御によって解決され、IFF マークIIは1939年10月に最初の1000セットがフェランティ社に発注されたが、一方でイギリス空軍のレーダーの更新や海軍でのレーダーの導入、夜間戦闘機の実用化などによって応答すべきレーダー波の種類は増え、12のサブタイプが作られるに至った。加えてマグネトロンで動作するマイクロ波レーダーが実用化されると、この周波数に対応できなかった。そのため1940年には様々なレーダー波に対応するのではなく、単一の帯域での質問波と応答波で味方を識別する方法が提案され、IFF マークIIIではレーダー側で追加の発信機が必要となるものの、航空機に搭載する装置(トランスポンダ)は大幅に単純化、軽量化された。現代でも使われる二次レーダー(Secondary surveillance radar)という語が生まれたのがこのころである。トランスポンダの応答波は時代が下るとともにより多くの情報を含められるようになり、この技術は1980年代には航法装置の位置情報を伝送することで地上の管制レーダーや管制官に頼ること無く相互の位置を確認する空中衝突防止装置(TCAS)にも応用されている。
CIP
1991年の湾岸戦争でアメリカ軍の地上部隊は、装備する暗視装置が中東の砂漠の砂塵で十分に機能せずに同士討ちが発生した[3]ことを省みて、戦闘識別パネル(英: Combat Identification Panel, CIP)と称する装備を導入した。これは輻射熱を低下させるテープを貼付したパネルを羽板状に組み、車体の上面や側面などに装備すると、サーモグラフィーの画像で周囲よりも相対的に低温となり暗い領域として表示されるため、敵味方の明確な識別を容易にしている。
2003年のイラク戦争で初めて実戦に用いられ、ほぼすべての多国籍軍の車両で後部や砲塔の側面に装備され、高機動多用途装輪車両などは運転席と助手席のドアを加工して装備した。